エッフェソイヤ!

建築のバックグラウンドから、次世代の建築を作るにはどうすればいいか考えているデザイン系院生が、建築/ゲーム/XR/UXデザイン/シチュアシオニスト/バク転/カポエラ/パルクール/筋トレ/クラブカルチャーについて幅広く語ります。

ベルリンのゲーム学科に日本の建築学科生が乗り込んでみた

 こんにちは、藤井です。

 
「溶ける建築、溶け込む情報」で書いたように、僕は今後建物としてのフィジカルな建築を建てる現状の建築界と、バーチャルな世界で世界づくりを行う映画業界やゲーム業界の境界は、今後徐々に薄れて行ったり、関わりが深くなって行くのではないか、という仮説を持っています。
 
 
現に、今の留学先であるベルリン工科大学でも、都市計画系の授業として、ゲームを作ってみよう、という授業が開講されています。
 
その授業の一環として、今回ベルリンのUniversity of Applied Science(以下、UE)に社会科見学的な感じでみんなで行ってきました。
そこで現状行われている教育と、教授陣・生徒との議論のまとめです。
 

全体のまとめ

・自分の周りの建築学科生での、少し絵が上手とか、パースが上手とか、形が作るのがうまい、というレベルを超えたレベルのアーティストが現在ゲーム業界には集まっている。今の世の中で一番アーティストとしての能力の高い人が集まっているのはおそらくゲーム業界だろう。(10数年前までは映画業界だったが、VRの出現で映画のCGアーティストがゲーム業界へ転職する、ということが多くなっているようだ。)
 
・しかし、建築学科の学生は、一点突破のスキルではゲーム学科のアーティスト・エンジニア達には劣るが、一つの作品を社会的な背景や、作品の雰囲気、ゲームシステム自体の面白さなど、様々な要素を総合して考えていく点では秀でている。能力値のバランスがとれている。
学科の教育カリキュラム的にアーティスト的な側面とエンジニア的な側面、またシナリオライター的な側面をバランスよくこなしているので、どの分野の人とも、それぞれの分野の人の考え方を理解したスムーズなコミュニケーションができると思われる。
もし、建築学科を出てゲーム業界に入りたい学生がいれば、今の自分の周りで絵が上手だから、モデリングが上手いからアーティストを目指す、というキャリア選択よりも、そのスキルを入り口にしつつも、ディレクター的なポジションを目指していくと良いのではないか。
 
・当たり前の話だが、建築と比べてゲームでは物理的な制約がほとんど存在しない、かつ面白そうだと思ったアイデアは即実装して遊んで見ることができるので、全体的に建築よりも良くも悪くも身軽な雰囲気を感じた。
建築学科内での、”ぶっ飛んだ”アイデアは、ゲーム学科では、またこれか…というレベルに使い古されている場合が多い。
 
・ゲーム業界の人は、思った以上に建築界に興味を持っていた。特に、ゲーム業界で最近出てき始めた、GIS情報を利用して都市と連携するゲームや、社会的な背景・問題を解決するためのゲームなど、ゲームも徐々に社会的な側面が大きくなってきており、そのようなゲームを作る際に建築の人々が考えていることは非常に興味深いようだ。
 

 
 

VRスケッチの体験授業

最初に通されたのは、VR空間の中に3Dで直接彫刻を作るかのようにモデリング(CG)を作れる、Gravity Sketchを使ったコンテンツ作成の授業でした。

 
自分も実際に体験してみたのですが、普段建築の課題などで、スクリーン上でモデリングを行うとき、例えば立方体の四角を作りたいときは、
 
  1. 平面で四角を描く
  2. 立面方向に視点を切り替える
  3. 垂直方向に立ち上げる
  4. 視点をパースビュー(立体的に見える画面)に変えてバランスを確認する
 
という4つのステップを踏まなければならないのに対して、このツールでは、
 
  1. 立体の空間のどこに四角を作るか決める
  2. 四角を”膨らませる”
 
この2ステップのみで作業が済み、それらが同時に、かつシームレスに繋がっているように感じました。マウスとスクリーンを介したよりも、身体に近いに感覚を覚えました。
モデリングソフトをいじったことがある人なら分かると思いますが、“奥/手前方向に線を引ける”という感覚が現状のスクリーン上では無理なので、それがすごく新鮮でした。
 
建築の最初のコンセプトデザインをする際、多くはスタディ模型というラフな検討用模型を作るのですが、
その代わりに、ざっくり踊るように身体を動かして空間を作っていく、という検討も可能になりそうだな、と思いました。
 
というより、学科の同期は実際に踊るようにして設計をしようとしていました。
 
 
その後、UE/ベルリン工科大の講師・チューター・生徒でフリートークの時間に。以下、トークの内容を軽くまとめておきます。
 

どんなツールを使ってるの?

学科でメインで教えているツールは、
モデリングだとAutodesk Maya、ゲームエンジンはUnity
そして、流体シュミレーションなどを行うときに、Houdiniという3ds Maxと連携したツールを使うようです。
そして、それらの様々なツール間の共通言語としてPythonがあるので、pythonも教えているそうです。
 
 

 

 
Maya, Unityに似たようなソフトで、3ds Max, Unreal Engineなどがありますが、少なくともドイツのゲーム業界でシェアが大きいのはこの2者のようです。
建築界の中で重宝されるRhinocerosは、教授の中では数人知っている人がいるが、生徒は名前すら知らない、という程度の認知度でした。
 

VRのポテンシャルってどうなんだろうね?

2018年現在では、まだ本格的な普及は起きていないが、2020年にようやく成長がスタートする、と考えている、というのが教授陣の意見でした。
90年代にも、VRの第一次ブームがあり、その際は肩透かしを食らったが、今度こそ、と学内でもかなり意気込んで教育がなされている雰囲気を感じました。
ARは、現状ゲーム業界ではポケモンGoが成功したものの、まだ実験的な側面が多く、学科では積極的な参入はしていない、とのことでした。モバイルARはもう少しポジティブに見られているようです。
 

ゲームと建築の繋がりって、一体なんだろうね?

アート系の講師の方が登場。(講師の方のウェブサイトhttp://www.the-stamm.com/wordpress/#)

ゲーム界が建築界から学べることは何で、建築界がゲーム界に貢献できることは何かな、という質問に対し、ディスカッションの中ででた一つの考えは、
 
ゲーム業界では現実の法規などのもとに建っている建築よりも、はるかに早く、自由にプロトタイプを作ることができる。そのプロトタイプの中でも、例えばオンラインゲームの協力プレイが生まれる仕組みなど、社会的な面で現実世界にフィードバックできる部分が存在するのではないか。
 
というものがありました。
 
また、建築界側からゲーム業界に貢献できるのは、まとめでも書きましたが、ゲーム業界で最近出てき始めた、GIS情報を利用して都市と連携するゲームや、社会的な背景・問題を解決するためのゲームなど、ゲームも徐々に社会的な側面が大きくなってきており、そのようなゲームを作る際に建築界で蓄積されてきた、現実の都市で生活している人をどう動かしていくか、という知識は非常に興味深いようです。
 

建築学科の人がもしゲーム業界に行きたいとすれば、どうすればいい?

昼休みに、チューターの方と話したテーマです。
自分自身がゲーム業界に興味があり、かつ建築でやっていたように色々な分野を幅広く製作することは可能か、と聞いたところ、
小さなスタートアップゲーム会社(Indie gamesと呼ばれます)であるなら、そもそも人数が少ないので、一人の人がプログラミングもグラフィックもストーリーも作る、ということはあり得るけど、AAAゲーム(トリプルエーゲーム。マリオ、ゼルダドラクエなど、誰でも知っている超一級ゲーム)の会社に入りたいなら、まずは何か専門性が無いと難しい、という答えでした。
 
これに対しては、建築業界のアトリエ系事務所と、組織設計事務所、ゼネコン設計部などの仕事の割り振られ方と似ているな、と感じました。
 
ただ、ベルリンを始めとしたヨーロッパ、アメリカには、ゲーム業界の中に“レベルデザイナー“という日本にない職種があります。グラフィックデザイナーでも、プログラマーでもなく、ゲームのマップの配置や、ゲームシステム自体の考案をする仕事です。
この分野が、一番建築学科生にとっては近いのではないか、という提案がありました。
グランドセフトオートや、カウンターストライクなどの大型ゲームには、ユーザーが勝手に新しいゲームの中のゲームを作ることができる"MOD"という機能・文化があります。
チューターの人にオススメされたのは、まず何かのゲームのMODを作ってみて、それをポートフォリオにしてゲーム会社の"レベルデザイナー"の募集に乗り込んで見ればいいのではないか、というアドバイスを受けました。
  

Mod (コンピュータゲーム) - Wikipedia

 

日本のゲーム業界の就職事情は自分もまだリサーチ中ですが、追々比較していこうと思います。

 

 

ゲームグラフィック・アートの授業

ディスカッションの後、午後にはゲームアートの授業にお邪魔させていただき、学科一年生の作品の講評会を見せてもらいました。
動かせる形で、箱庭を作り、ゲーム全体の世界観を伝える、モックアップを作っていました。
講師の方は、何か明確なスタイルに合わせて生徒を教育していくのは「自分のクローンを作ってもしょうがない」と言っており、なるべく生徒たちが最初に持っているスタイルを活かせるように、自主性を伸ばしていく教育をしているようです。
 

・最初は、城を作ろうと思っていたが、モデリングをとても正確にやらなければならなかった。俺は面倒臭がりなので、コピペでうまく作れる方法でやった。ネオンライトやサイバーパンクな雰囲気が好きなので、カラフルなライトをたくさん使った。仕上げに、光の粒子を少し散らしてムードを出している。

 
 

youtu.be・一番CGの技術が高かった学生。最初のセメスターでこれはすごい...

 

 

youtu.be

・2Dっぽく見える3Dの世界、という面白い試み。細かいところまですごく気が利いている。
 
 

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・ 動画を撮るのを忘れてしまいましたが、個人的に好きな作品。VR-cadeと書いてあるように、少し荒廃した未来のベルリンがテーマのようです(アキラ、攻殻機動隊っぽい)

 

建築学科でも、自分の思い描いた空間を模型やCGで表現することはよくありますが、ゲーム学科では当たり前なのですが、自分の操作に応じて変化する空間イメージを表現できるんだな、と感動しました。
 
 
 
と、こんなところです。ベルリンのゲーム業界、また建築ーゲームの繋がりに興味のある方の何かのきっかけになれば、と思います。
では!