エッフェソイヤ!

建築のバックグラウンドから、次世代の建築を作るにはどうすればいいか考えているデザイン系院生が、建築/ゲーム/XR/UXデザイン/シチュアシオニスト/バク転/カポエラ/パルクール/筋トレ/クラブカルチャーについて幅広く語ります。

バイリンガルと翻訳技術から建築業界の未来を考えてみる

最近、Googleを始めとした自動翻訳技術が、機械学習によってものすごく性能を向上させています。
そうなると、”これから、全てリアルタイムに翻訳が可能になるので、語学など勉強する必要は無くなる。”という仮説を述べる人が登場し始めました。
 
これ、本当なのでしょうか?自分の経験を踏まえて少し考えてみたいと思います。
外国語(言語)を使う仕事の人たちで、翻訳技術に代替される人/されない人を考えた後、その法則を見出して、では建築業界で出てきている技術で代替される人/されない人は誰?というのを考えてみました。
 
 
 

1.厚切りジェイソンとラッパーはすごい

恐らく、翻訳技術によって、仕事上の事務連絡や、学術論文の翻訳、旅行での軽い会話など、外国語の情報が正確に伝われば問題ない状況では、人間が必ずしも努力しなくてもよくなる可能性が高いです。
しかし、例えば日本のお笑い芸人や、フリースタイルダンジョンに登場しているラッパーが、翻訳技術を使ってアメリカのコメディアン界や音楽界で大成功を納める、というのは、少し想像がしづらいです。逆にいうと翻訳技術が向上しても、松本人志よりもニューヨークのコメディアンがそのままのジョークで日本のテレビで人気を収めることは難しいでしょう。
厚切りジェイソンなどのお笑い芸人も、日本の文化と外国語としての日本語を相当勉強・分析した上で人気を取っていて、あの技は翻訳技術によって真似できるレベルではないでしょう。(もしかしたら、その国の文化に合わせてギャグをコンテクスト含め翻訳するような研究がどこかで今進んでいるかもしれませんが。知っていたら教えてください。)

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今挙げた2つの職業は、言語をものすごく高いレベルで使って、言葉の芸術を作る人たちです。言葉が持っている、辞書通りではない意味合いや、周りの空気に合わせた適切な言葉の内容とタイミングの選択、場合によってはあえてそれを崩す言葉の選択をするなど、言葉を高いレベルで総合的に運用している人たちです。
 

2.外交官と商社マン

自分はラッパーでもお笑い芸人でもないですが、やはり英語が通じる人に対してもその人の母国語のドイツ語が堪能に喋れると、人間関係がよりスムーズですし、そこから生まれる面白い人との"ウェーイ!飲むっしょ!!"より深めの会話に価値を感じます。
例えばベルリンに住んでいるトラックメイカーと友達になって、オススメのレコードの何がいいのかを聞いたり、ドイツ人と日本人とアメリカ人の考え方の違いを根本的に知ったり、彼らに信頼してもらって仕事を頼んだり、頼まれたりするのは、彼らの母国語がかなり高いレベルで使えると非常にスムーズに事が進みます。
親戚に、外交官の人がいるのですが、その人も”実際外交官だとほとんどの人が意思疎通としてはまったく問題ないレベルで英語が喋れるが、相手の母国語が喋れる人が一人交渉の場にいると圧倒的にスムーズに進む”と言っていた事があります。
おそらく、外交官や商社マンは、留学中の自分に似たように、外国語を芸術レベルに使わないですが、言語を、人の思いに影響を与えて、行動してもらうためのツールとして用いてそれ以上の新しい価値を生み出している、と言えます。
 

3.翻訳技術でいらなくなる人たち

しかし、何かの説明書を翻訳する人や、旅行ガイド、中途半端な翻訳をする小説の翻訳家、TOEIC何点だからすごい!!という価値観は、徐々に消えていくでしょう。なぜなら、これらの人たちは、言語を別に芸術レベルで使えたり、言語をツールとして用いてそれ自体とは別の新しい価値を生み出す必要がない、もしくはできないからです。
このように、新しい技術が出て来た時に起こるある程度共通したルールは、
 
全ての人が偏差値50あたりに底上げされることで、それまで偏差値55あたりで利益を得ていた中途半端な人が駆逐される
 
ということだと思われます。
翻訳技術が生まれる前までは、誰もが"ある程度”外国語を話せる必要があって、それができない人は恐らく仕事に困ったり、できる人がもてはやされたりします。
けど、翻訳技術が登場した後は、"たくさんの単語を知っていて、しっかり意思疎通が取れる"という能力だけでは、周りとの差が無くなります。皆が同じように意思疎通できるわけですから。
そうなると、"外国語の意味がわかること”、”外国語で意思疎通が取れること”はもはやさほど重要ではなく、
 
  1. より高度な、母国語レベルに外国語を使って、言葉の芸術を生み出すこと(厚切りジェイソン)
  2. 外国語をツールとして、その向こうにある人の行動に影響を与えたり、人間関係を広げること(優秀な外交官や商社マン)
 
が、生身で外国語を話す人に求められてくるようになります。
 
”これから、全てリアルタイムに翻訳が可能になるので、語学など勉強する必要は無くなる。”
 
この仮説に対しての答えは、意思疎通できるレベルで外国語を運用したり、ただ外国語の本を読んでいるだけでそれを実践に活かしていない人はその勉強は無駄になるが、お笑い芸人/ラッパーレベルに外国語自体を芸術レベルに用いたり、外国語をツールとしてその先にある世界観や人間関係の広がりを得たい人に取っては勉強する必要がある、というものになります。
つまり、中途半端にやるんだったらやめた方がいい、やるなら徹底的にやれ、ということになります。
 

4.自動設計技術とむき出しになる価値

今までみてきた、
  1. 新技術の登場
  2. 今まで重要と思われていた能力が皆できるようになる
  3. 中途半端な人が消える
  4. コアにある価値が見え、それを生み出せる人が残る
という流れは、どのような技術にも当てはまるフレームワークだと思われます。最近騒がれている、AIで仕事が奪われる、という話も、機械学習技術の登場を発端とした、このフレームワークの一つです。
 
建築業界でも、分かりやすくこの動きは始まっています。
 
全ての人の、今まで"設計力”とされていた能力を底上げするツールが登場し始めました。こうなると、
 
1.いらなくなる中途半端な人→物理的なパラメータを統合して、齟齬がない設計を早くできるだけの人、お客さんが好きそうな素材の配置を提案するだけの人、図面や模型が上手なだけの人
2.外交官/商社マン的建築家→建物を作ることにより生まれる体験の内容にこだわり、建物を建てることを一つの手段として様々な"体験"をデザインしていく
3.厚切りジェイソン/ラッパー的建築家→地面の上に大きな建物を建てる、という縛りの中で、自動設計の最適解で作れない偏差値70越えの芸術作品、人類史に今までない構造を持った"建物"を作っていく
 
建築業界で働いている人の立ち位置はこのように分かれていくのではないか、と予想されます。
2と3だと、3の方がより競争が激しいと僕は考えています。なぜなら、2の人は目的に応じて手段が複数あるため臨機応変に変更する事ができ、かつ自動設計等の技術の進歩によりおそらくその行き来は今までよりも行いやすくなりますが、3の人は手段=目的であるため、逃げ場がないです。その代わり、成功すると歴史に名を残す事ができます。
 
また後日書こうと思いますが、自分は”建物”自体に対してはどうしょうもない愛を感じるタイプではないので、今は2番の道を行くために色々と模索している段階です。