エッフェソイヤ!

建築のバックグラウンドから、次世代の建築を作るにはどうすればいいか考えているデザイン系院生が、建築/ゲーム/XR/UXデザイン/シチュアシオニスト/バク転/カポエラ/パルクール/筋トレ/クラブカルチャーについて幅広く語ります。

ベルリンのVRカンファレンスに行ってみた

こんにちは、藤井です。

今回は、割と実地レポート的な記事を書こうかと思います。
11月にベルリンMicrosoftにて開催された、VRカンファレンスの内容まとめと、各セクションに対しての自分の考えたことがまとめてあります。
カンファレンスのWebページはこちらです。https://vr-conference.berlin/en
 
大まかなまとめとしては、
・VRと騒がれているが、向こう3-4年は完全没入型のVRはゲーム業界などの限定的な導入に留まり、短期的に見てビジネスチャンスが大きいのは工場や医療現場での、作業効率化の為のMR/ARデバイスだろう。
 
・教育界においては、抽象的な概念の説明や何度も簡単に行えない実験を見せるなど、大きなポテンシャルが見られるが、生徒たちがそれに慣れてしまった後も効果が残るかに付いてはまだ検討する必要がある。
 
藤井の感想として、
・VRの本質の一つに、現実で行うと、材料費や人件費の関係でものすごくコストが掛かってしまう体験を、バーチャルで行うことによるコスト削減というものがある、と感じた。自分が体験のデザイナーとして面白さを感じる、現実的な制約がない世界における現実世界では得られない体験の設計、という指向性の他にも、現実に限りなく近い体験を、ローコストで行う、という指向性もあることが分かった。
これは、比較的”真面目”な航空業界や医療業界で、失敗するとリスクの高い訓練やテストを行う際にまずは利用されるのだろう。
 
・Microsoftの主催のイベントなので、当然だがHololensの投資価値を説明する為のプレゼンが為されていた。割と、没入型VRの可能性については積極的に語られることは少なかった。
・ゲーム業界でVR/ARが導入される、というのはもはや当たり前の認識として来場者の中で共有されていて、それゆえ会場全体のテーマは”ゲーム以外の分野でどうVRが貢献できるのか”というように設計されていたと感じた。
 
 

 

1.Welcome to Mixed Reality/What is Mixed reality? (Michael Zawrel氏、Hololensシニアプロダクトマネージャー)

 

バーチャルリアリティ、と言われるが、我々はリアリティに様々なレベル・スペクトルを想定している。

完全なバーチャルリアリティとしては、現状没入型のゴーグルが存在し、反対の現実側に近いところには、Pokemon GoなどのAR技術が存在する。
Hololensは、それらの中間に位置する。空間マッピングとジェスチャートラッキングができるという点。
Hololens/AR/没入型ゴーグルを含めた、様々なレベルのバーチャルリアリティ技術を総称して、マイクロソフトでは”Mixed Reality”と呼んでいる。
 
 

 
マイクロソフト側で想定しているHololensの利用ケース
1.遠隔作業・作業補助
・両手が空いたまま、空中に表示された作業情報を確認できるので、工場やその他の作業員の教育コストやミスにより起こるリスクを大幅に削減することができる。

 

2.3次元空間へのデータの可視化

・医療系の現場で、臓器の内容を3次元で確認できる。

 

6.空間マッピングを利用するケース

 

・警察の現場検証などにおいて、現場の3D情報を一度に全て保存し、後で警察本部で完全再現が可能になるようにすることで、現場情報収集にかかる時間を削減する。

 

 

・高齢者向けの階段リフトは、従来は家庭ごとに階段の形が様々異なった為、各家庭に人を何度も派遣→状況確認→価格決定というプロセスを踏む必要があった。

しかし、Hololensにより階段の形状を3Dスキャンしてもらうことができれば、人を派遣せずに済む、もしくは派遣された人が一度にスキャン情報を元に価格を決定することが可能になる。
 
Hololensの主要顧客
 
航空業界や自動車業界の会社が多いのは、①で説明された通り、おそらく整備士の訓練や整備内容の教育コストの削減の為のMRツールの導入だろう。
 
 
質問コーナー
質問①:プレゼンテーションは、ビジネス顧客をターゲットとした利用法が紹介されていましたが、一般消費者向けの利用法は考えられていますか?
→現状は、価格帯が原因となって一般消費者へのリーチは難しいと考えている。それゆえ、今後数年は企業向け利用に集中していく。
 
藤井の考え:価格帯、はVRにおいてとても重要な要素になってくると考えられる。まとめにも書いたが、VRの大きな利点は「現実で行うと非常にコストが高くなる体験のコスト削減」なので、VRデバイスの方が現実の体験より高く付いてしまう場合は、現実の体験が選択されるのは当然。
もう一つの指向性として、現実では体験できない体験を、コストが高くても担保できる(ゲームなど)は存在するが、恐らくそれが必要とされるのは現状ゲーム業界になる。
 
質問②:Hololensは視野角が狭いことが問題になっているが、それに関してはどう捉えているのか。
→視野角を広げようとすると、その分バッテリーの持ち時間が下がってしまう。現状のHololensは、そのような様々な要素を折衷して作られた現状の最適解です。
 

2.Studying with virtual reality (Dr. Susanne Rupp)

 

SamsungとCornelsen(ドイツの教材メーカー)の共同プロジェクト

生物の授業で、酵素の働きという実際には見ることができない概念をVRで説明する試み。
VRデバイスのみではなく、学びのゲーミフィケーションも同時に導入した。
 
現状の授業スタイルをVR技術を中心にして根本的に変えるのではなく、ある程度知られている教育メソッドなどを導入して、スムーズなVRの教育への導入を目指した。
 
結果として、生徒たちは普通の授業より積極的な参加が見られ、教師からも「VRを本格的に授業に導入していきたい」というフィードバックが得られた。
 
この話をするときに、よく聞かれるのが、VRが目新しいものだから、生徒はそれに興奮してモチベーションが上がっただけではないか、というものだが、実際に数日間VR機材を使い、生徒が慣れてきた後でもモチベーションは下がることはなかった。
 
しかしながら、一般的なドイツの教育環境にVRを導入していくのは、Wi-Fiの接続が完璧ではないこと、生徒ではなく教師が通常の授業準備や他の業務と並行して新しい教材を学ぶ時間が足りないなど、まだ問題が残っている。
 

 
 

 
 
 

3.Digital worlds for analog success (Dr. Andreas Kohne/ Materna GmbH)

VRの利用方法を考えるコンサルタント会社で、かなり哲学的な側面からプレゼンテーションを行なっていた。

 

ワークプロセスの学習 (Hololens側の人のプレゼンテーションの”遠隔作業・作業補助”と内容は似ている)

様々な業務のワークフローにおいて、重要なのは身体の動きだ。その身体の動きも、VR技術である程度教育することができる。
例:レストランのフライパンのひっくり返し方、どこに何を置くべきか、など
人はVR空間で死ぬことはない、それこそがVR技術の利点だ。
 
→死ぬというのは全てのリスクの中で最も高いもので、コストは無限大。なので、死ぬリスクのある訓練や体験を擬似的に行うことができるのがVRの利点。
 
ショウルームの削減
    通常、いろいろな見本市ではわざわざショウルームを建設して、ディスプレイや製品を設置しなければならない。VR技術は、ユーザーの目の前にショウルームを出現させることができるという意味で、モバイルショウルームを作ることで、ショウルーム建設にかかるコストを削減することができる。同じように、不動産業においてのモデルルームも削減することができる。
 

4.Holographic Experiences (Kevin Proesel Saint Elmo's Berlin)

コンテンツ制作側からの、どのようなものを作ったのかという説明。

 

没入型(immersive)ストーリーテリングの体験を、BMWのショウルームのブースで行う。

この日の唯一のBtoCの指向性があった発表。
 
藤井の考え:没入型体験、というので、実際車の中に入ったりするのかと思いきや、小さな模型のような車に人が乗っかったりするものだった。
おそらく、Hololensを使わなければならない、という規定が先にあり、それに合わせてコンテンツを設計せざるを得なかったのではないか。
ベルリンでも、まだVR界隈のキラーコンテンツは生み出せていないのかもしれない。さらなるリサーチを続ける。